香りの舞い ~流れる水のように 燃える火のように 静かな大地のように 自由な風のように~

ジャワ舞踊やガムラン音楽に関すること、日々の気付きや学び、海外生活で見聞したこと、大好きな植物や動物に関してなどを、私が感じたことを気ままに、ゆるゆると書いていきます

「意味のない動きをするな」大野一雄さんの思い出 ~アメリカの思い出

今日は、一度お会いしただけなのに、私の舞踊に対する考え方に大きな影響を与えてくれた、大野一雄さんについて少し書きたいと思います。

アメリカの芸術大学に留学していた時期、ロサンゼルスに舞踏家の大野一雄さんがいらしたことがあります。公演とワークショップをされました。

舞踏については、実はアメリカに行く前は全く知りませんでした。CalArtsのダンス科に入学して、同級生が舞踏の本を読んでおり、「踊りは美しくなくても良いんだよ」と話してくれて、衝撃を受けた覚えがあります。それが、私が初めて舞踏を知った瞬間でした。

ただ、舞踏グループ山海塾のメンバーが、ビルからロープで吊り下がるパフォーマンス中に死亡したというニュースを日本で聞いたことがあったのですが、それが舞踏に関係するとは後で知ったことです。

舞踏は、土方巽さんと大野一雄さんによってはじめられ、日本では、かなりアンダーグラウンドですが、アメリカやヨーロッパでは非常に人気があります。私もロサンゼルスやニューヨークの大小の劇場で何度も公演を観ました。舞踏の影響を受けたダンサーも非常にたくさんいます。海外ではButohと呼ばれます。日本では、以前は暗黒舞踏とも呼ばれていたようです。非常に強烈な身体表現をとる前衛的な舞踊です。アメリカでは、ポストモダンダンスに分類されていました。顔や体を白く塗って演じられることが多いと思います。はじめて舞踏を見たのは、芸術大学1年目の授業で使われたビデオです。ほぼ裸に近い男女が白塗りでくねくね動いていたり、もがき苦しむような表情や動きなど、これが舞踊なのかと衝撃を受けました。授業では、舞踏は日本の広島、長崎の原爆の経験が影響しているのではないかなどと、議論されていたと記憶していますが、私自身は、そんなことより、日本人が古くから持っている精神性というか、土地のイメージというか記憶、そういうものが強く影響しているのではないかと思ったことを覚えています。

舞踏については、私自身そこまで詳しくないのですが、こんなサイトを見つけましたので、興味のある方はご覧ください。

暗黒舞踏 土方巽、大野一雄の創造した前衛舞踊の今 Japanese Contemporary Art dance: BUTOH | BIRD YARD

他にも、舞踏に関しては、検索すれば、ネット上でたくさんの情報を得られると思います。

 

そんなこんなで、私が舞踏に興味を持ち始めた頃、大野一雄さんがロサンゼルスへいらっしゃいました。たしか、1993年のことだと思います。大野さんは1906年生まれとのことですから、その時すでに90歳近かったわけですね。今気づいてびっくりです。非常にお元気でした。

彼のワークショップでとても印象に残っているのは、「意味のない動きをするな」ということです。例えば、足を一歩前に出すのでも、ただ足を前に出すのではなく、上体が前に傾き、バランスが取れず転びそうになるから、転ばないために足を前に出す。そこに、足を前に出す意味があるというわけです。それが意味のある動きです。そして、たとえ指一本動かすのでも、そこに意味がなければならないと。これは、その後の私の振付や、踊る時の意識に大きな影響を与えました。今は、私はジャワ舞踊や、相手がいれば即興で踊ることが多いですが、今でも、どんな踊りでも、踊る時は、試行錯誤をしながら、自分なりに意味のない動きをしないよう、自身を顧みながら踊るようにしています。意味のある動きとは、本当に何でしょうね。

また、もうひとつ印象に残っているのは、「一輪の花を手にもって、生と死のはざまを歩くように歩く」というワークショップです。もちろん、花もイメージで持っているだけです。そして、そこでも意味のない動きもしないわけです。生と死は水のように私の右と左に漂っていて、そのはざまの道をよろよろと歩いているような感覚だったことを覚えています。生と死の間は、別世界のようでした。意識が別世界に行っているような感覚で、また、なぜか心が震えていたことを覚えています。今でも、思い出すだけで、なぜか心が震えます。

 

大野一雄さんの舞踏公演では、たしか、「ラ・アルヘンチーナ頌」「わたしのお母さん」などの作品を踊られたと思います。でも、私が一番印象に残っている作品は他にあります。残念ながら、題名は覚えていません。その作品では、舞台の上にグランドピアノが置かれ、ピアニストが演奏をしています。大野一雄さんは、そのグランドピアノの前に、観客の方に向かって、ただ立っています。確か、上半身は裸だったと思います。ピアノの演奏だけの長い時間が流れた後、ある瞬間、大野さんが「はっ」と息を吐きながら、手を上げ、顔を上にあげて、コントラクションをしたのです。動いたのはほんの一瞬。それだけでした。その作品がどれだけ強烈だったことか。私はもう、熱狂しましたね。そこにすべてがあったのです。光も闇も、天と地も、熱狂も苦しみも愛も…。

ちなみに、コントラクションというのは、モダンダンスやジャズダンスをされている方はわかると思いますが、息を吐きながら、脊椎の下の方(腰椎)を丸く曲げることです。腹部を後ろに引いているように見えます。非常にパワフルな動きです。

 

大野一雄さんのワークショップを受けたのは、その時一回きりでしたが、私に大きな印象と影響を与えてくれました。公演は、確か、その後、日本でもう一度見たはずです。その時、大野一雄さんは車いすでしたが、まだ踊っていらっしゃいました。その時のことはあまり覚えていないのですが、もしかして夢だったりして。

 

大野一雄さんとの出会いで一番印象に残っている「意味のない動きをするな」ということは、踊る時はもちろん、普段の生活でも、とても意味のある考え方ではないかと感じています。右往左往せず、腹を据えて、シンプルに動きたいものです。「意味のない動きをしない」ことが、結局は一番強いと思うのです。

 

読んでくださってありがとうございました。

あなたにとって素敵な一日となりますように。

 

<今日の植物(庭の植物シリーズ)>

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「暖かな色のレウィシアの花。まるで多くの要素の結晶のよう。すべてがあります。生きています」photo by Kaori



 

 

 

 アラ アルヘンチーナ頌と私のお母さん