「流れる水」と聞いて、あなたはどんな想像をしますか?
大河の流れ?
小川の流れ?
山で岩場から流れでる清流?
海の潮の流れ?
水道から流れる水?
それとも、流れる汗とか。
人それぞれ、いろいろあると思います。
私のイメージとしては、美しく穏やかな川の流れです。見ているだけで癒されます。
流れる水というキーワードは、私がジャワにいた時に何度か縁があり、大切に思っています。
ジャワ語では、バニュミリBanyu miliといいます。バニュは水、miliは流れるを意味し、水が流れるように滑らかで連続していることを指します。ジャワ舞踊でもとても重要で、水が流れるように滑らかに動くことが洗練されている(ハルスhalus)とされ、求められるクオリティです。ジャワ舞踊にもいろいろな種類の踊りがありますが、洗練された種類の舞踊や、洗練された役柄の舞踊を踊る時はもちろんのこと、荒々しい役柄の時も、荒々しくなりすぎず、荒々しい中にバニュミリのクオリティが求められるのがなかなか難しい…。私は、ジャワ舞踊を始める前は、ジャズダンサーでありモダンダンサーであったわけですけど、ぱしっぱしっと、はっきり早く動くことは得意でも、柔らかい動きはちょっと苦手としていたので、始めたころは、バニュミリということがとても難しかったです。だんだん身についてきたとはいえ、20年以上たった今でも試行錯誤しています…(笑)。一生勉強ですね。
参考までに、他にも、ジャワガムラン音楽では、特にガンバン(木琴のような楽器)のうまい演奏者の演奏は、バニュミリと例えられます。ずっと滑らかに鳴り続け、止まらないからです。あとは、パーティなどでお料理が途切れずに出てくることや、お客が途切れずに来ることもバニュミリに例えられます。
私がジャワに住んでいた時、非常につらいことがあり、かなり落ち込んでいたことが何度かあります。その時、何人かのジャワの先生方に、「水が流れるように、流れに身を任せて生きなさい」とアドバイスをいただきました。随分前のことなので、はっきり覚えていないのですが、初めは「こんな悪い状況なのに、流れに身を任せるなんてとんでもない。頑張って何とか抜け出さなきゃ」と思ったように思います。でも、あとで思えば、とても深いというか、的確なアドバイスで、かなり救われたような気がします。私にとっては、のちに何度も思い出し、噛みしめたアドバイスでもあります。
この場合の流れるは、ジャワ語では、ngeli(ンゲリ)という単語が使われます。(日本語で発音を示すのはほぼ不可能ですね…。)よくないことが起きた時でも、それを受け止めて、認めて、流れ/起きた状況に身を任せるということのようです。ただ、keli(ケリ:無意識に流される、自分の意志とは関係なく流される、無意識に状況に影響される)のではなく、自分の意志で流されるのだそうです。ジャワ語では、ngeli ning ora keliという格言で表されています。確かに、それでうまく回り始めることも多いと最近気づいています。ジャワ精神世界は深く、興味深いです。まだまだ知りたいことが満載です。
私も水が流れるように滑らかに舞い、しなやかに、とらわれずに生きていきたいものだなぁと考えているこのごろです。
伊勢神宮内宮にて photo by Kaori